司法ウォッチ 森山史海 コラム12

2015年8月19日 | 森山史海

「中傷サイト被害最前線」 第12回 「共犯者」という自覚

 サイトでの誹謗・中傷の問題に関する活動を始めて、現状ではいかに解決には時間とおカネがかかってしまうことが分かりました。誹謗・中傷した人を特定するには、被害者個人ではどうしようもありません。業者に頼むとなると、どうしても高額な費用が掛かります。様々な手続きが必要となり、ほとんどの方が諦めざるを得ない現実があることを知りました。

 最近ではテレビに、こうした問題に専門にかわっていることをうたう弁護士も登場し、費用面を紹介するのを目にします。解決への高額な費用に、一様に驚く参加者の姿を目にします。まだまだ、この現実は知られていないというべきかもしれません。

 前にも書いたように、このような状況では、被害はどんどんエスカレートしていくと思います。もちろんネットでの情報は、時に詐欺などで困っている人たちが、これ以上被害が出ないようにとか、情報を集めるために役立っている部分もあります。おカネさえ業者に出させば、ネガティブ情報が消せるということの問題を指摘する見方もあります。

 ただ、本当に正しい情報なら問題なくても、そうではない場合もあります。事実無根のネガティブ情報に基づいたり、それを拡散すれば、加害者になってしまいかねない恐ろしさがあることを、ネットユーザーはもっと自覚する必要があると思います。

 あるサイトで、「バイクで事故に合い修理を頼んだが、そのバイク屋にボラれた」との書き込みがされました。もちろん、名指しで住所から電話番号などもすべて書かれました。車種や事故の状況なども細かく書かれ、ここまで書くということは、第三者がみれば真実と思える記述でした。

 そのバイク屋さんにも、すぐに書き込みの事が伝わりました。そもそもの内容としては、事故にあったから相手の保険会社と交渉して、保険金で修理をして欲しいというものでした。そのバイク屋さんは、受付の際に説明をしたそうです。

 保険会社との交渉は、まず損害箇所を全てチェックし、見積書を作ります。一つ一つの部品の部品番号を書き出し、値段を調べて工賃を出し、こちらの印鑑を押して提出します。それだけでも数時間かかります。その後、保険会社の担当が来て一つ一つのキズが本当に事故でできたものかどうかチェックし、保険金額が決まります。保険会社との交渉は一日だけの場合もありますが、状況によって数日かかる場合もあります。

 ここまで時間をかけて交渉しても、中には修理をしないと言うお客さんがいます。その場合でも、バイク屋さんとしても無料でとはいかないので、少しだけ手数料をとります。それで納得行く場合はお受けしますと言って、受付伝票に、そのように記載しておきます。

 今回のケースでも、そのような形で記載し、お客さんの側は、納得して受け付けしたそうですが、「保険金額が決まると修理をしないのだから一円も払わない」と言ったそうです。結局、バイク屋さんは一円も貰わず終わったそうですが、その後ネットに、前記のようなことが書かれてしまったそうです。

 その結果、「悪徳ショップ」として、ネット上のあちこちで炎上してしまいました。数日に渡り、バイク屋さんには抗議の電話やメールが来たそうです。そのなかでも、書き込みを信じた一人があまりにも酷い書き込みをし、拡散し続けたため、バイク屋さんは警察へ行きました。名誉毀損、営業妨害と言うことで 書き込みをしたお客さんはもちろん、書き込みを信じて拡散してしまった人も警察から呼び出され、その時、はじめて真実を聞かされたそうです。

 「俺は悪くない、書かれたことを信じてしまっただけだ」。こういったところで、バイク屋さんが大変な迷惑を被ったことは間違いありません。本人は、まさか自分が加害者になってしまうなどと夢にも思わなかったでしょう。バイク屋さんは、ネットで書き込んだ人は、まだ若いし反省もしているようだから、といって和解をしました。

 このようなケースは、案外多かったりもするのです。インターネットの誹謗中傷で被害を受けている人はどの位いるのでしょう。年々増加の状況は確実に悪化しているようにみえますが、把握しきれていないのが現状ではないでしょうか。気にならない人には理解できないことでしょうが、たった一言の誹謗中傷から死に至るケースもあるということを知ってほしいと思います。

 この問題に対しては、個々で対応するより社会全体が協力し合い、悪質な誹謗中傷を抑止して行く体制が必要です。そして、そのためにもネットユーザー自らが、不確かな情報を拡散することで、被害を広げる共犯者になることへの自覚も求められます。

 私たちの活動は様々な人達の協力によって運営ができています。まだまだ力不足ですが、これからこの問題を一緒に考えて活動してくれる人が増えてくれることを願っています。関連記事

中傷サイト被害最前線

第1回  サイバーオーディター (コラムが残っていないため表示できません)

第2回  最初の『彼女

第3回 巨大掲示板の恐怖

第4回  頼るところ

第5回  誰も手を差し伸べない現実

第6回  『書くことを止める』と言う発想

第7回  加害者に伝える『効果

第8回  『真実』という見えない壁

第9回  被害者と向き合うという原点

第10回  ネット『告発』との区別

第11回  拡散にご協力を!

第12回  『共犯者』という自覚

第13回  誤ったネット情報による『安心感』の罠

第14回  根本的な解決へ私達が今やるべきこと 

第15回  自らの行為に向き合ってもらうために

第16回  ねじ曲がって伝えられる被害訴えの真実

第17回  ネット被害対策としての教育

 

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