2014年12月29日 | 森山史海
「中傷サイト被害最前線」 第7回 加害者に伝える「効果」
まず、シンプルに考えてみましょう。今なぜ被害者は困っているのか-ー。サイト上で個人情報を公開されたり、誹謗中傷されたり、身に覚えのない悪口を書かれたり。それが誰によって書かれたものかも分からず、不特定多数の人に見られてしまうこと。
では、なぜ書かれてしまうのか。匿名ということで、書いた人が特定できない。調べようにも費用がかかり過ぎて調べることもできない。警察に行っても事件性がないと直ぐには対処してくれない。書く側の意識は、常にその裏返しです。特定されない、他の人もやっているという安心感。相手に精神的ダメージを与えられるという「効果」。そのことによる、自らのストレスの解消――。
書く側からすれば、あるいは面白半分の嫌がらせ以上に、本人とは理由を並べたくなる事情があるのかもしれません。でも、だからといって許されることではないということに、気付いてもらわなければなりません。自分がしていることを自覚して、仮に正当に訴えるべきことがあるのならば、それこそ他の正当な手段を考えてもらうしかありません。
では、どうしたら書くという行為は止められるのか。前記したように現在の被害者を取り巻く現実的な環境は、加害行為の抑止どころか、それを促すといっていいものになっています。現実は、加害者予備軍に思いとどまらせ、気付きを与えるものには、全くなっていないということです。
いかなる理由があろうとも、こうした行為を社会が許さないことを自覚してもらうこと。もう世の中は放置もしないし、泣き寝入りもしないと言うことを目に見える形にする。「あなた」が書いたことは、きちんと監視され、記録されていることを本人に分からせる――。この基本的な発想のもとに、私は試行錯誤しながら、それを活動として具体化していくサイトを作り始めました。
数年かけて弁護士さんたちのアドバイスを受けながら、試しに「ホスラブ」に載せてもみました。ますは、被害者に、書き込みは、どのカテゴリーで、どのスレットか、レス番号は何番かを教えてもらい、確認をする。それに対して、こちらのサイト上で、その書き込みに対し、監視、記録をしているという証明をする受理番号を発行する。それを書き込まれたサイトの書かれているスレに書き込んでいき、こちらのサイトの情報も一緒に載せる。
まず、知り合いの男性で1分おき位に個人情報などを書かれるスレが上がっているところに、「個人情報が書かれています。○○番、○○番、○○番と、それに関する全ての番号について記録、監視をします。これ以降の書き込みには注意をして下さい。受理番号×××× エコプラネット」(「エコプラネット」とは、現在の「サイバーオーディター」の前の名称。知り合いの使っていなかったサイトを借りていました)と載せました。
書き込みは、最初スルーされていましたが、何度も書き込んでいるうちに、「なにこれ?」「なんのこと?」という反応が出始めました。そこでこちらのURLを張り付けて誘導してみました。「バカじゃないの」「だだの脅し」など、気にもしない人がいる中で、「本当にサイトあった。なんかヤバイ?」などと書かれ始め、1分おきに書き込まれていた行動が、ピタリと止まりました。
書き込みが止まった!この時の気持ちは今でも忘れられません。とにかく、書くことを止められたことは、私にとって大きな成果であり、大きな手ごたえでした。書かれた本人も凄く喜んでくれました。彼は自分のこととだけでなく、母親や兄弟のことまで書かれ、病んでいました。
ところが、この後さらに驚くことがありました。書かれた彼に電話が来たのです。その女性は、私たちの書き込みについて聞いてきたので、彼ははっきりと、それが知り合いの人のやっている活動であり、自分ももう問題ある書き込み行為を許さないし、場合によっては警察にも弁護士に相談するし、いろいろ教えてもらい、自分のできることはするつもりである、ことを伝えました。
すると、彼女はこう切り出したのです。
「ごめん、私も書いちゃった。酷いのは私じゃないよ?でも、もう2度と書かないから許して」
このケースでは、書かれた彼は、加害者について数人心当たりがあり、実は彼女も、そのうちの一人だったそうです。彼は、彼女の言に反し、たぶん酷いもの書いたのは彼女だと思うと言っていました。
管理者による削除は、被害の継続を止めるのには、もちろん重要な意味があります。ただ、書き続ける人間がいる以上、それはイタチごっこになる可能性もあります。とにかく、受理番号を発行することで、それが加害者に伝わり、書き込みは止めることもできた。その時、やっと少し先が見えてきた気がしましたのでした。
中傷サイト被害最前線
第1回 サイバーオーディター (コラムが残っていないため表示できません)
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