司法ウォッチ 森山史海 コラム 2

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2014年8月7日 | 森山史海

「中傷サイト被害最前線」 第2回 最初の「彼女」

 私が最初に匿名掲示板のことを知ったのは、今から8年前、飲食店に勤めていた当時20歳代の女の子の相談からでした。

 勤めているお店の掲示板で悪口を書かれている。内容も嘘ばっかりで、誰が書いているかわからない――。その場で見せてもらった私の第一印象は、今考えれば意外なほど、冷静なものでとした。「私だったら気にもならないこと」。正直、そうとしか思いませんでした。近所の主婦たちの噂話と変わらない、関わらなきゃいい話。放っておけば、そのうち気にならなくなること・・・。

 書かれたことのない、あるいは気にかけない多くの人には、あのときの私のように、こうした掲示板での中傷も、あるいは重大なことという認識がないかもしれません。その彼女自身、相談とはいっても、その時はまだ、悩んでいるというよりも、「ムカつく!」という程度だったと思います。彼女は、どちらかというと、負けん気の強い男勝りな女の子でした。誰かわかったら、ただじゃおかない!こんな嘘書かれて、冗談じゃない。見つかったら凄いことになりそうだな・・・そんな感じでした。

 ところが彼女は、それから会うたびにサイトの書き込みについて相談してきていました。私は、それでも、またか、面倒だな、見なきゃいいのにと、少しうんざりしていたのが本心でした。ただ、少しずつ彼女の様子に変化が表れはじめました。負けん気の強い彼女が、暗く、何かに怯えるようになっていったのです。

 それでも、私は最初は彼女のプライベートのことに原因があると考えました。彼氏のこと、仕事のこと、友達のこと・・・。でも、そうではありませんでした。彼女を変えてしまったのは、やはり掲示板の書き込みだったのです。中傷が消えないこと、誰でも見ることができてしまうこと、誰が書いたかわからないことに、彼女は真剣に怯えていたのです。

 やがて彼女は、どんどん周囲の人間を信じられなくなりました。いつも誰かに怯え、人を疑い、攻撃するようになりました。こちらが何を言っても悪く取られるようになり、しまいには私までをその書き込みを行っている人物として疑っているのを肌で感じました。

 最後に会った時、私を睨みつけていた怖い目が、今でも忘れられません。助けてくれなかったね、どうせ他人事なんでしょ。あなたも私の敵だよね――彼女の目は、明らかに私にそう訴えていました。そう言われている気がしました。今、彼女がどうしているのか、分かりません。明るくて、友達とワイワイ騒ぐのが好きだった彼女でしたが、友達もいなくなって、消息は今も分かりません。

 この体験が、私が中傷サイトについて真剣に考えるようになったキッカケの一つです。あのとき、もっとちゃんと一緒に考えていたらと、思い出すと心が痛みます。掲示板に書かれた他人の中傷記事は、当事者以外にはなかなか深刻に受けとめられない、あるいは体験した者でなければ分からない恐怖があります。どれだけ自分に置き換えて、その深刻さを共有できるのか。それは、口で言うほど簡単ではありませんが、それでもなんとか向き合わなければならない。

 その後の、私はこの世界にものすごい数の「彼女」「彼」たちがいることを知ることになりました。そして、私は、ネット空間に広がる、得体の知れない「声」に怯える「彼女」「彼」たちの孤独に、なんとか手を差し伸べなければならない、と考えるようになったのです。

中傷サイト被害最前線

第1回  サイバーオーディター (コラムが残っていないため表示できません)

第2回  最初の『彼女

第3回 巨大掲示板の恐怖

第4回  頼るところ

第5回  誰も手を差し伸べない現実

第6回  『書くことを止める』と言う発想

第7回  加害者に伝える『効果』

第8回  『真実』という見えない壁

第9回  被害者と向き合うという原点

第10回  ネット『告発』との区別

第11回  拡散にご協力を!

第12回  『共犯者』という自覚

第13回  誤ったネット情報による『安心感』の罠

第14回  根本的な解決へ私達が今やるべきこと 

第15回  自らの行為に向き合ってもらうために

第16回  ねじ曲がって伝えられる被害訴えの真実

第17回  ネット被害対策としての教育

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